更新日:2026年8月5日|カテゴリ:運用・トラブル
結論:HDD故障は「突然」ではなく予兆が出る。S.M.A.R.Tの5項目で多くは先回りできる(予兆なしの突然故障もある)
クラウドストレージ大手 Backblaze が数万台のHDDを分析した結果、故障したドライブの約76.7%が、故障前に S.M.A.R.T の重要5項目(ID 5・187・188・197・198)のどれかで「異常値(RAW値がゼロより大きい)」を示していたと報告しています。
とくに「代替処理済みセクタ数(05)」と「代替処理保留中セクタ数(197)」がゼロから増え始めたら、交換準備のサイン。RAIDを組んでいても、1台壊れたら再構築中に2台目が逝く「二重故障」でデータ全損のリスクがあるため、予兆を見つけたら早めに動くのが鉄則です。
⚠️ ただし当サイトのDS223j(DSM 7.2.2)では、S.M.A.R.T.属性の一覧がDSMの画面にありません(DSM 7.2.1-69057 Update 1 で無効化されたと説明されています。7.3以降で戻ったという情報もあり、当サイトでは未確認です)。まずお使いのDSMの画面をご確認ください。属性一覧が無い場合、DSMで追えるのは「総合ステータス」と「S.M.A.R.T.テストの結果」までなので、RAW値そのものを数字で追うにはHDDをPCに直結してCrystalDiskInfoで読むなどの手段が要ります(第3章で説明します)。
1. そもそもS.M.A.R.T(スマート)とは?
S.M.A.R.T.(Self-Monitoring, Analysis and Reporting Technology)は、HDD/SSD自身が動作状態を記録・自己診断する仕組みです。各項目は「ID(番号)」と「RAW値(実数)」を持ち、代替したセクタの数や通電時間、温度などを記録しています。NASのOS(SynologyのDSMなど)はこの値を読み取り、異常があれば警告を出してくれます。
ポイントは「正規化値(100や253などの相対スコア)」よりも、項目によっては「RAW値(実際の回数・個数)」を見ること。とくに不良セクタ系はRAW値がゼロから増え始めた瞬間が重要なサインです。
2. 故障を予兆する重要なS.M.A.R.T項目
数十項目あるS.M.A.R.Tのうち、家庭用NASユーザーが押さえるべきは次の項目です。
| ID(10進/16進) | 項目名 | 意味 | 危険度 |
|---|---|---|---|
| 5(05) | 代替処理済みセクタ数 | 読み書きできない不良セクタを予備領域に振り替えた数。劣化の進行を表す | ★★★★ |
| 197(C5) | 代替処理保留中セクタ数 | 読み取りが不安定で「振替待ち」のセクタ。データ損失に直結しやすい | ★★★★★ |
| 198(C6) | 回復不能セクタ数 | 訂正できなかったセクタ。出たら危険信号 | ★★★★★ |
| 187(BB) | 報告された訂正不能エラー | ECCで訂正できなかったエラー数 | ★★★★ |
| 188(BC) | コマンドタイムアウト | 命令への応答が間に合わなかった回数。配線・電源・劣化のサイン | ★★★ |
| 194(C2) | 温度 | 高温が続くと寿命が縮む。目安は概ね50℃以下に | ★★(参考) |
| 9(09) | 通電時間 | 累積稼働時間。年数の目安に | ★(参考) |
Backblazeが重視する「5項目」
Backblazeは長年の運用と業界の知見から、メーカーをまたいで一貫性があり故障予測に有効な項目として SMART 5・187・188・197・198 の5つを採用しています。このいずれかのRAW値が「0」から「1以上」になったら要調査、というのが実務的な判断基準です。逆に言えば、これらがずっと0なら比較的安心の目安になります。
RAW値は「いくつになったら」危険?読み方の目安
S.M.A.R.T.の各項目には「現在値/最悪値/しきい値」という正規化スコア(多くは100や200から始まり、劣化すると下がる)と、「RAW値(実際の回数・個数)」が並びます。不良セクタ系(05・197・198)でまず見るのはRAW値です。目安は次のとおりです。
- 05・197・198のRAW値が「0」なら健全。この3つがずっと0を保っているHDDは、不良セクタ由来の故障予兆が出ていない状態です。
- 0から「1以上」に変わった時点で要調査。とくに197(保留中)・198(回復不能)は1でも要警戒。少数でも増加トレンドが続くかを毎月チェックします(RAW値を表示できる環境が必要です。DSMの画面に出ない件と代替手段は第3章)。
- 数十〜数百へ増え続ける、または短期間で跳ね上がるなら交換準備。「昨日まで0だったのが今週50」のような急増は、劣化が加速しているサインです。
具体的な「何個で必ず故障」という閾値はメーカー公表がなく、絶対的な数値基準は存在しません。ここでの目安は「0からの増加」と「増え続けるか」というトレンドで判断する一般的な考え方です。数値の解釈は使用ドライブのメーカー資料も併せて確認してください。
3. SynologyのDSMでHDDの健康状態を確認する手順
Synology NAS(DSM)なら、専用ソフトを入れなくてもブラウザだけで健康状態を確認できます。
- DSMに管理者アカウントでログイン
- メインメニュー → ストレージマネージャ → HDD/SSD を開く
- 対象ドライブを選び 「健康状態」 を表示(総合ステータスが「正常」かを確認)
- 「S.M.A.R.T.テスト」→「拡張テスト」→「起動」 で詳細スキャンを実行(時間がかかるため夜間推奨)
総合ステータスが「正常」以外(警告/重大)になっている、拡張テストが「失敗」または途中で止まる、(RAW値を確認できる環境なら)不良セクタが増え続けている──このいずれかなら故障が強く疑われます。Synologyは月1回「ドライブ正常性レポート」も自動送付するので、メール通知を有効にしておきましょう。
当サイトのDSM 7.2.2には、属性の一覧がありませんでした
上の手順で見られないものをはっきり書いておきます。当サイトのDS223j(DSM 7.2.2-72806 Update 9)では、「健康状態」の画面に属性一覧を開くタブ・ボタンはありませんでした(2026年8月5日確認。タブは「概要/S.M.A.R.T./履歴」の3つで、S.M.A.R.T.タブの中身はテストの実行・結果・スケジュールだけです)。
理由については、Synology_HDD_db の Issue #232 で、DSM 7.2.1-69057 Update 1 でストレージマネージャがパッケージ化された際に、S.M.A.R.T.属性の詳細表示が無効化されたと説明されています。それ以前のDSM 7.2には属性詳細を開くボタンがあった、と同Issueでは説明されています(当サイトは変更前の画面を実機で見ていません)。
⚠️ 7.3以降で表示が戻ったという情報もあり、当サイトでは未確認です。まずお使いのDSMで「健康状態」を開き、属性の一覧があるかどうかを確かめてください。あるなら、以下の代替手段は不要です。
無い場合、DSMだけで追えるのは「総合ステータス」と「テスト結果」まで。この記事で説明した05・187・188・197・198のRAW値を数字で追いたい場合は、次の2つになります。
- HDDをPCに直結して CrystalDiskInfo で読む(確実だが、運用中のNASからドライブを抜く必要があります)
- SSHを有効にして
smartctlを使う(NASのまま読めますが、コマンド操作に慣れた方向けです)
現実的な使い分け
運用中のNASからHDDを抜くのは手間もリスクもあります。普段はDSMの「総合ステータス」「月1回の拡張テスト」「ドライブ正常性レポートのメール通知」で監視し、異音・速度低下・警告が出た段階でRAW値を確認する ——この順番が家庭では現実的です。RAW値が見えなくても、総合ステータスの「警告/重大」と拡張テストの「失敗」は、そのまま交換判断の材料になります。
出典:007revad/Synology_HDD_db Issue #232「Anyone know how to re-enable SMART Attribute Details?」(「Since DSM 7.2.1-69057 Update 1 Synology changed Storage Manager to be a package and disabled SMART Attribute Details」との記載。⚠️ 発言者は同リポジトリの開発者で、Synologyの公式アナウンスではありません)/Synology Community のフィーチャーリクエスト。同スレッドでは、属性の定義はメーカーごとに異なり統一された基準がないため、ドライブのステータス表示で判断してほしいという趣旨のSynology側の説明が伝えられていますが、当サイトが直接確認できたのは上記の実機の挙動までです(コミュニティ投稿の内容は伝聞として扱ってください)。⚠️ DSM 7.3以降で属性表示が戻ったという議論もありますが、当サイトでは確認できていません。
QNAP NAS(QTS)の場合は、メインメニューから独立アプリの「Storage & Snapshots(ストレージ&スナップショット)」→ ストレージ → ディスク/VJBOD を開いて対象ドライブを選び、「ヘルス」→「S.M.A.R.T.情報」 からRAW値と診断テストを確認できます(Storage & SnapshotsはControl Panel配下ではなく独立したアプリです)。メーカーが違っても「不良セクタ系のRAW値が0から増えていないか」を見るという判断軸は共通です。
4. 数値だけじゃない「動作」の予兆サイン
S.M.A.R.Tに加えて、次のような体感サインも故障の前触れです。異音はとくに、S.M.A.R.Tが「正常」でも物理障害が進んでいることを示す代表例なので、数値と合わせて耳でも確認しましょう。
- 異音:後述の聞き分け表を参照。周期的な「カチカチ」音は要注意
- 転送速度が急に遅くなる:読み取りリトライで待たされている可能性
- 頻繁にフリーズ・ビジーになる/たまにドライブを見失う
- RAIDが「劣化(degraded)」通知を出す:1台がすでに脱落している状態
- 起動・マウントに異常に時間がかかる
NAS HDDの異音の聞き分け表
| 音の種類 | 状態 | 危険度 |
|---|---|---|
| 起動時の「ウィーン」「カチッ(1回)」 | スピンアップ・シーク音。正常動作の範囲 | 問題なし |
| アクセス時の「カリカリ」「コツコツ」(不定期) | 通常の読み書き音。データ処理中のサイン | 問題なし |
| 周期的な「カチッ、カチッ」の繰り返し | ヘッドが退避を繰り返す「クリック・オブ・デス」。物理障害の疑い | ★★★★★ |
| 甲高い「キーン」「ピー」の連続音 | スピンドルモーター・軸受けの異常が疑われる | ★★★★ |
| 「ガリガリ」「擦れる」ような音 | ヘッドがプラッタに接触している可能性。データ損失リスク大 | ★★★★★ |
| 「カタカタ」振動を伴う音 | マウント緩み・ファン干渉のことも。まず固定と設置を点検 | ★★(要切り分け) |
周期的なカチカチ音や擦れる音など物理障害が疑わしいときは、通電やアクセスを続けるほど症状が悪化しがちです。重要データがあるなら通電を止め、障害別のデータ復旧フローで次の一手(自力対応の可否・専門業者の判断)を確認してください。予兆の段階を過ぎてしまった場合の受け皿になります。
5. 交換タイミングの判断基準
| 状況 | 判断 |
|---|---|
| 総合ステータスが「警告」「重大」 | 即交換 |
| S.M.A.R.T拡張テストが失敗 | 即交換 |
| 197(保留中)・198(回復不能)が1以上 | 即交換準備(増加中なら最優先) |
| 05(代替済み)が0から増え、増え続ける | 早めに交換 |
| 187・188が継続的に増える | 警戒(配線・電源も点検) |
| RAIDが劣化通知 | 即交換(※下記の注意) |
| 温度が常時50℃超 | 設置環境を改善(故障要因) |
⚠️ この表のうち05・187・188・197・198のRAW値は、当サイトのDSM 7.2.2ではDSMの画面に表示されませんでした(第3章。7.3以降は未確認)。Synology NASだけで判断する場合は「総合ステータスが警告/重大」「拡張テストが失敗」「ドライブ正常性レポートの通知」が主な材料になります。RAW値まで確認したいときは、PC直結でCrystalDiskInfo、またはSSH+smartctlを使ってください。
RAIDは「1台壊れても止まらない(可用性)」ための仕組みで、バックアップの代わりにはなりません。1台交換したあとの再構築(リビルド)中は、残りのドライブが長時間フルに読み出されるため、そこで2台目が脱落してデータ全損という事故が実際に起きます。なお「同時購入・同型番だと故障時期が近くなる」ことを示す定量的な公開データは、当サイトでは確認できていません(この点はNAS用HDDの初期不良チェックと同じ立場です)。買い方に関係なくリビルドは危険な時間帯なので、劣化を見つけたら迅速に交換しつつ、必ず別媒体へのバックアップ(3-2-1ルール)も併用してください。
S.M.A.R.Tで警告が出たら、まずこの3ステップ
- バックアップを最優先で取る:交換やテストより先に、まだ読めるうちに重要データを別媒体へ退避します。すでにRAIDが劣化中なら、負荷をかける操作は最小限に。
- 状態を確定する:拡張テストと健康状態(総合ステータス)の結果を記録します。05・197・198のRAW値まで確認するなら、PC直結でCrystalDiskInfoかSSH+
smartctlです(DSMの画面には出ません)。 - 同容量以上のCMR HDDを用意して交換:RAIDなら1台ずつ交換してリビルド。リビルド中は高負荷で2台目が脱落しやすいため、ステップ1のバックアップがここで効いてきます。
6. 交換用HDDの選び方
交換するならNAS用のCMR方式HDDを選びましょう。定番は Western Digital「WD Red Plus」や Seagate「IronWolf」です。24時間稼働・振動耐性を前提に設計されています。容量は現在使用中のドライブと同容量以上が原則(RAIDは最小容量に合わせるため)。
SMR方式のHDDはRAID再構築時に極端に遅くなり、リビルド失敗のリスクが上がります。NASではCMR方式を選んでください(WD Red Plus・IronWolfはCMR)。なお2026年はNAS向けHDDが値上がり傾向(生成AI・データセンター需要の影響)のため、予兆が出てから慌てず、早めに1台予備を確保しておくと安心です。
まずは1台、いま使っているドライブと同容量以上のCMRを予備に。迷ったら家庭用2ベイの定番、WD Red Plusの4TBあたりが無難です(価格・在庫は変動するので執筆時点の目安として確認してください)。
7. 故障を遠ざける予防策
- UPS(無停電電源装置)を併用:停電・瞬電は書き込み中のデータやファイルシステムを壊す代表的な原因。NASとUPSをUSBで連携させ、停電時に自動で安全シャットダウンを。
- 温度管理:直射日光・密閉空間を避け、風通しのよい場所へ。高温はHDD寿命を縮めます。
- データスクラビング:DSMの定期スクラビングで「ビットロット(静かなデータ破損)」を早期検出(深夜にスケジュール)。
- 月1回のS.M.A.R.T拡張テスト+正常性レポートのメール通知ON。
- 3-2-1バックアップ:データ3つ・媒体2種類・1つは別の場所。RAIDだけに頼らない。
停電・瞬電による書き込み中のデータ破損を一台で防ぐなら、家庭用NASに手頃な小型UPSから始められます(価格・在庫は変動します)。
8. よくある質問(FAQ)
smartctlを使うことになります。まとめ:予兆を「数値」と「音」で早期発見し、迅速交換+バックアップ
この記事の要点
- 故障の約77%は事前にS.M.A.R.Tの5項目(5・187・188・197・198)で予兆が出る
- とくに197(保留中)・198(回復不能)が1以上、05(代替済み)が増加中なら即対応
- DSMは「ストレージマネージャ→HDD/SSD→健康状態→S.M.A.R.T拡張テスト」で確認。⚠️ 当サイトのDS223j(DSM 7.2.2)には属性の一覧がありませんでした(7.2.1で無効化されたと説明あり。7.3以降で戻ったという情報もあり未確認)。無い場合にRAW値まで見るならPC直結でCrystalDiskInfoかSSH+
smartctl - RAIDはバックアップではない。予兆→迅速交換+3-2-1バックアップ
- 交換はNAS用CMR(WD Red Plus/IronWolf)。UPS・温度管理・スクラビングで予防
▶ NAS向けおすすめHDD比較(WD Red・IronWolf)
▶ CMRとSMRの違いをわかりやすく解説
▶ NASが遅い!スピード改善の方法
▶ NASが壊れた!データ復旧できる?障害別対処フロー
▶ 3-2-1バックアップルールとは
・Backblaze「What S.M.A.R.T. Stats Indicate Hard Drive Failures」(SMART 5/187/188/197/198)
・Synology ナレッジセンター「ドライブ正常性レポートで確認すべきこと」
・Synology ナレッジセンター「ドライブが警告/重大などの異常ステータスのとき」
・007revad/Synology_HDD_db Issue #232(DSM 7.2.1-69057 Update 1 でS.M.A.R.T.属性詳細が無効化された経緯)
・Synology Community「S.M.A.R.T.属性表示の復活を求めるフィーチャーリクエスト」